170万人の組合員を抱える生活協同組合「コープこうべ」(神戸市)で令和3年、取引先から多数のゴルフ接待を受けたなどとして、経営トップの組合長ら2人を解職する不祥事があった。当時広く報道されたが、その後、法廷闘争に発展。不祥事の公表で不当に名誉を傷つけられたとし、2人が逆に同生協を訴えたのだ。接待自体は認めた中で主張したのは、接待ルールの〝実態〟。司法判断は揺れ、確定は今春までもつれ込んだ。
海外視察の「表」と「裏」
「タイ視察の件ですが、エクセルベースでの提案をお願いします。表行程、裏行程。視察目的もお願いします」
当時組合長と常務理事だった2人がタイに飛んだ海外視察。その行程を組む取引先の食品商社の社員に対し、同生協の担当者が元年9月に送ったメールには「表」と「裏」という記載が登場する。
返信に添付されていたのは、同じ3泊4日だが、中身は異なる2種類のスケジュール。「表」で工場視察が組まれている日の予定は、「裏」ではゴルフと観光と記されていた。2人は同生協の理事会には「表」の行程をもとにした出張を報告しつつ、実際には取引先とのゴルフを楽しんだ。
これだけではない。同生協側の調査で元組合長が27回、元常務理事が29回のゴルフ接待を受けたことが判明。1泊2日の視察の誘いに対し、「時間的に十分余裕がありませんので、視察なしで結構です」と伝えてゴルフだけを楽しんだり、自らゴルフ接待を要求したりしたこともあった。
同生協は3年3月に2人を解職し、ホームページなどで「ゴルフの接待を受けているにもかかわらず、所定の手続きがなされていないことが判明しました」と解職理由を公表。これに対し、「手続き違反はしていない」と元組合長らが反発したのが訴訟の発端だ。
現組合長は〝甲子園接待〟
同生協役員の服務内規は原則として接待を禁止。「取引先等との『おつきあいの心得』」は、接待をしたり受けたりする際には、事前申請か事後報告が必要と定める。
2人はゴルフ接待を報告しておらず、出張の際に「接待なし」と虚偽報告をすることもあった。明らかにルール違反と思われるが、指摘したのは「無断接待はほかの役員も同じ」という点だ。
具体例として告発したのは、現組合長への〝甲子園接待〟。取引先の手配で甲子園球場のロイヤルスイートでプロ野球阪神戦を観戦した際の写真を示し、「なぜゴルフだけがことさらに取り上げられるのか」と訴えた。
昨年10月の1審神戸地裁判決は「役員間で手続きが徹底されていたとは認められない」と指摘し、手続きを定めた「心得」の対象は職員だけで、役員には適用されないと判断。名誉毀損(きそん)を一部認め、同生協に計38万5千円の賠償を命じた。
しかし、今年4月の2審大阪高裁判決では一転して、元組合長らが完全敗訴という結果に。理事会で繰り返し、ゴルフ接待の禁止が周知されていたことを重視し、「『心得』が適用されるか否かを問題にするまでもなく、内部的なルールに違反した」と結論付けた。元組合長らは上告せず、高裁判決が確定した。
するもされるもリスク
民間同士での接待は法律で禁止されているわけではない。しかし、企業法務に詳しい木村圭二郎弁護士(大阪弁護士会)によると、「社会常識」を超える接待を禁止する企業は増えている。
企業にとって役職員が過度な接待を受けることは、不適正な取引を誘発し、会社に損害を与えるリスクになる。こうした状況を防ぐため、過度な接待を持ち掛ける相手とは取引を切るという対応をとる企業もある。
木村氏は「危機管理として、癒着が生じないようルールを定め、徹底することが重要だ」と強調。特に接待を要求する行為には懲戒処分も検討すべきだと指摘する。
「接待イコール悪ではない。適切にやっていけば、相手先と非常にいい関係を生み出せる機会だと認識しています」
神戸地裁の裁判官に接待を受けることへの認識を問われ、こう答えた元組合長。自らが「適切」から足を踏み外した代償は大きかった。
原文出處 產經新聞