分類
台灣史

日本台湾学会設立趣意書


最終更新:2011年2月1日

近年台湾に生起しつつある目覚ましい変化に刺激され、昨今内外の学術界では台湾に関する関心が静かに高まりつつあります。

台湾は、17世紀以降相前後して、その社会の成員の多数を中国大陸から移住した漢族が占めており、中国的特色を持った政権に統治された時間が長いことから、広い意味の中国文化の被覆する地域であるということができます。従って、台湾に関する学術的研究も広い意味での中国研究に含めて進められてきました。また、台湾は17世紀の一時期にはオランダの、19世紀末から20世紀半ばまでは日本の支配の下にあり、その関係で、これらの時期については、オランダ史または日本近代史の一部として、その政治史、社会経済史などの分野の研究が行われています。

しかしながら、台湾という地域は、地理的には、日本から島嶼部東南アジアに連なる西太平洋海上交通路の中央に位置し、中国大陸との間には幅約150-200キロメートルの台湾海峡が存在しています。民族的には、本来、オーストロネシア語族に属する非漢族先住民族の居住地であり、歴史時代の開始はかなり新しいものでありました。また、歴史時代の開始初期や近現代において、中国大陸を統治する政権とは別個の政権により統治され、台湾の社会は、中国大陸の中国主流社会とは別個の、政治的・経済的・文化的発展の軌道を歩んできました。さらに、その地理上の位置を利して、経済の躍進が見られるときにはいつも、輸出の増進がそれを刺激してきたことも、その歴史の大きな特色であります。

このような地理的・民族的・歴史的事情は、台湾という地域が、学際的な(interdisciplinary)地域研究(area studies)の対象の一つにふさわしい濃厚な個性を有していることを物語っていると、わたしたちは考えます。

言い換えれば、このことは、この地域に関する学問的研究が、これまでの中国研究(China studies)の下位分野ないし事例研究としての一地方研究(たとえば山東省研究)に軽々に同定されず、一定の独自性をもって成立し得ることを示しています。そして、そのような個性を十全に認識する研究姿勢をとること、さらにそのような姿勢により研究資源を有効に組織していくこと、これらが、この地域に関する学問的研究をいっそう充実していく所以であります。また、中国研究についていえば、このような台湾研究とも重なり合う、複合的・重層的な中国、というイメージこそが、台湾研究と相互に建設的な関係を持ちうる中国研究ではないか、とも考えるしだいです。

ひるがえって、日本における台湾研究の現状を見るに、1970年代までの、イデオロギー的・政治的忌避や無関心状態を脱した現在、研究関心も広まり、一定の成果もあがっているのは喜ばしいことですが、しかし、依然、理論的にも実際的にも組織化不足の状態にあり、あるいは個々のディシプリンや研究者毎に、あるいは個々の関心対象に即して、分散したままの状態にあります。上にも述べたように、わたしたちは、中国研究あるいは近代日本研究に対して、対抗的に台湾研究が組織されねばならないと主張しているのではありません。台湾研究に関する現在の組織化過少が克服され、台湾という地域の個性に見合って一定の独立性を持った研究者のネットワークが形成され、維持されるべきではないかと考えるものです。

このため、わたしたちは、

(1)日本における学際的な(interdisciplinary)地域研究(area studies)としての台湾研究(Taiwan studies)を志向する研究者の潜在的なネットワークを顕在化させ、相互交流の密度を上げ、研究資源の有効利用をはかることを通じて、日本における台湾研究の充実・発展につとめる、

(2)他地域における台湾研究との交流の窓口の一つとしての役割を果たすことを目的として、日本台湾学会(The Japan Association for Taiwan Studies, 略称JATS)の設立を呼びかけます。

学会は、この趣旨に賛同し、規約に定められた会員の義務を履行する研究者を成員とし、主として次のような活動を行っていきたいと存じます。

1.会員間の交流を促進するための、定期研究集会・随時の研究会の運営、インターネットのホーム・ページの設定・維持などの活動
2.研究のインフラストラクチャーの改善のための、文献目録、関連事典、研究案内などの編纂
3.他地域の台湾研究者との交流

以上の趣旨に賛同の上、日本台湾学会に会員としてご参加いただき、ともに台湾研究の学問的充実のために手を携えられんことをお願いいたします。

発起人〔1997年10月16日現在、姓の50音順〕

石田浩(関西大学経済学部)、
井尻秀憲(筑波大学)、
大橋英夫(専修大学)、
岡崎郁子(吉備国際大学)、
河原功(成蹊学園)、
栗原純(東京女子大学)、
黄英哲(愛知大学現代中国学部)、
駒込武(お茶の水大学文教育学部)、
近藤正己(近畿大学)、
佐藤幸人(アジア経済研究所地域研究部)、
下村作次郎(天理大学国際文化学部)、
瀬地山角(東京大学大学院総合文化研究科)、
武見敬三(東海大学)、
クリスチャアン・ダニエルズ(東京外国語大学アジア・アフリカ言語研究所)、
張士陽(神奈川大学)、
塚本照和(天理大学国際文化学部)、
塚本元(法政大学法学部)、
土田滋(順益台湾原住民博物館)、
凃照彦(名古屋大学経済学部)、
中川昌郎(京都外国語大学)、
中島利郎(岐阜教育大学外国語学部)、
沼崎一郎(東北大学文学部)、
春山明哲(国立国会図書館)、
檜山幸夫(中京大学法学部)、
藤井省三(東京大学文学部)、
松田康博(防衛庁防衛研究所)、
松永正義(一橋大学経済学部)、
三田裕次(台湾史研究家)、
山田敬三(神戸大学文学部)、
劉進慶(東京経済大学)、
若林正丈(東京大学大学院総合文化研究科)

1997年10月16日

原文出處 日本台湾学会

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