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小笠原欣幸 Yoshiyuki Ogasawara:中国22年ぶりに「台湾問題白書」を発表 20220810


中国22年ぶりに「台湾問題白書」を発表

本日8/10,中国の国務院台湾弁公室(国台弁)が22年ぶりに「台湾問題白書」を発表した。この種の白書は1993年,2000年に継いで3つ目。3つの白書の題名は次のとおり。

① 1993年「台湾問題と中国の統一」
② 2000年「一つの中国原則と台湾問題」
③ 2022年「台湾問題と新時代中国の統一事業」

字数は過去の2つの白書が1万1000字程度であったが,今回は1万4000字程度で記述が増えた。長くて読むのに苦労した。

今回このタイミングでの白書の発表は,この秋の共産党大会で習近平が発表するとされている「台湾問題を解決する総体方略」の露払い,予告だと思う。ただし,内容にあまり新味はない。大枠は過去の2つの白書と2019年の習近平演説の踏襲である。

大雑把にいうと,
〇台湾が歴史的に中国の一部であるという主張の繰り返し。
〇中国共産党は祖国の完全統一に向け揺るぎなく進んでいる。
〇「平和的統一,一国二制度」の路線を堅持する。
〇台独勢力と外部勢力の企ては断固粉砕する。
〇台湾同胞は骨肉の肉親,血は水より濃い,血脈相連,運命共同(習近平お気に入りの用語)
〇統一で台湾は発展し将来が明るくなる。

それでも,これまでの対台湾政策の方針文書と比較して違いもある。特徴を整理した。

(1)蔡政権を台独・分裂と規定
白書は,民進党当局(蔡英文政権のこと)を台独・分裂の立場だと規定した。これまでは抽象的な形で「台独は絶対許さない」という論述で,その厳しい態度を強めていた。2020年以降,中国メディアや国台弁の会見では「民進党当局が台独の陰謀を企図している」といった用語が使われるようになっていたが,共産党の重要文書で蔡政権を指して台独・分裂と規定したのは初めてであろう。20回大会報告で公式にそう規定する可能性が高い。共産党のロジックでは「独立・分裂」の活動・勢力はどんな手段を使っても阻止制圧することが正当化される。やはり20回大会後(習近平3選後),台湾への圧力が強まると予想される。

(2)アメリカを強く批判
今回の白書はアメリカ批判が目立つ。過去の白書でも米批判はしているが,蒋介石側をサポートしたとか武器売却とか歴史的経緯であった。今回新しいのは「アメリカが台独勢力をけしかけ,台湾を使って中国の統一を阻止する政治陰謀を行なっている」との記述だ。この表現も,トランプ時代の最後の年あたりから中国外交部などが米批判で使っている用語なので新しいわけではない。だが,公式文書で確認することで,アメリカへの対抗姿勢が強まると予想される。

(3)統一後の台湾について
過去の白書では,統一後の台湾は軍隊を維持することができると明記していたが,今回それが消えた。これは,台湾政策ブレーンの1人である人民大学の王英津教授が『中国評論』で統一後の台湾に軍隊保持を認めるべきではないという論文をすでに発表していたので大きな驚きではないが,白書から消えたということは,知らないうちに中国は一国二制度の定義を狭めたことを意味する。

今回の白書では,統一後の台湾が「一国二制度」の下で,経済発展や安全やら中華民族の自尊心やらでどれほど有利になるかと強調している。

他方で,香港の「一国二制度」については,中国共産党と中国政府が「根本的な治療を行ない,一国二制度を堅持した」と自画自賛している。

また,統一後の台湾について,今回の白書は,関係国(日米などを指す)は台湾との経済や文化の関係を継続できるし,領事館を置くこともできるとしている。しかし,その前提は「中国中央政府の批准を経て」である。以前の白書よりも統一後の台湾の空間は厳しくなっている。

いずれにせよ,香港の「一国二制度」の命運を見た台湾人にとって,吸引力は薄いだろう。

(4)武力行使の文脈
「我々は武力を使わないという約束はしない」と明記されているが,これは,今までと同じ用語。「台独勢力あるいは外部勢力が挑戦してきてレッドラインを超えるなら断固たる措置を取らざるをえない」というのは過去の白書より若干詳しい記述であるが,基本的には同じ。「平和的統一の堅持」と書いている。

むしろ,2000年白書では「台湾当局が無期限に統一交渉を拒否するならば武力行使を含む措置」との項目があったが,それは今回はない。

ただし,今回の白書は,「外部の干渉と台独の事態発生に非平和的方式を含む措置を十分準備している」と今までと同じ用語を使ったうえで,「その目的は祖国の平和的統一の可能性を維持し,平和的統一のプロセスを推進するためである」という一文が加わった。これは,今までにない連結のしかたである。これまでの公式文書では,武力行使は「台独分子と分裂活動に対して」と位置づけられているが,今回は統一促進の文脈にまで拡大している。

これをどう解釈するか,本日の時点では確実なことは言えないが,「統一促進のためにも武力行使がありうる」という新たなステージを予告する文言のようにも見える。習近平の党大会報告でどう記載されるのか,これが「総体方略」の中に明記されれば,緊張が高まるだろう。

原文出處 Yoshiyuki Ogasawara

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