政治を志す人や議員への嫌がらせ「票ハラスメント(票ハラ)」対策が課題となる中、参院選には、過去最多の181人の女性が立候補した。有権者が投票の見返りに候補者に様々な要求をする票ハラは、女性や若者らの政治参加の障害になるとも指摘されており、国や地方議会が対策に乗り出している。
握手や撮影で 「笑顔で受け流すしかない」。近畿で活動する女性候補は公示前の今月中旬、票ハラについてあきらめ顔で話した。
新型コロナウイルスの新規感染者が減少し、有権者と握手する機会が増えると、手を握ったまま離さない男性がいた。写真撮影と称して肩を組み、体を寄せ付けてくる被害もあった。
これまでも、男女問わず「子どもを産んでないくせに」「スカートをはくな」といった心ない言葉を浴びせられた。政治活動用に公表しているメールアドレスに、交際を申し込む文面が届いた経験もある。
女性は「票をほしい政治家が反論したり、断ったりしないことをわかってやっており、悪質だ。女性議員を増やし、こうした世の中を変えたい」と強調する。
内閣府によると、当選回数の多いベテランらが立場を利用して、若手議員の意に反した言動をすることもハラスメントに当たる。
別の女性候補は地方議員時代、同僚男性に体を触られた経験があるが、「やめてくださいとはっきり言えなかった。コミュニケーションの一環で、仕方ないかなと悩みながら過ごした」と悔しそうに振り返った。
被害深刻
政府が2020年度、地方議員5513人に行った調査によると、政治活動中に有権者や議員から、票ハラを含むハラスメントを受けた地方議員の割合は42・3%に上った。特に女性は57・6%が被害を受けていた。
国会では昨年6月、「政治分野における男女共同参画推進法」の改正法が成立し、施行された。議員や候補者へのセクハラのほか、妊娠や出産に関する嫌がらせ「マタニティー・ハラスメント」を防ぐため、国や自治体に研修や相談体制を整備するよう求めている。
「有権者も学んで」
政府は、全国の地方議員から寄せられたハラスメント事例1324件に基づく啓発動画を制作し、4月から動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開している。
ボランティアの経験をきっかけに地方議員を目指した29歳の女性が主人公で、選挙中に有権者に抱きつかれたり、当選後には、ベテランの男性議員から、宴席で体を密着されてデュエットを強要されたりするなどの被害を紹介している。担当者は「有権者もどんな行為がハラスメントにあたるか学んでほしい」とする。
地方議会も対応に動き出した。福岡県議会は今月21日、議員や有権者からのハラスメント防止を目指す条例案を可決した。都道府県で票ハラを想定した条例が制定されるのは初めてだ。
県議や県議選の立候補者らを対象に相談窓口を設け、外部有識者が聞き取りを実施。議長が注意喚起したり、相談に基づく調査結果を公表したりして啓発を促すことができる。
相談の仕組みを
議員のメンタルケアなどを手がける一般社団法人「ポリライオン」によると、社会をよくしたいと思って政治家になった後、ハラスメントに耐えきれず出馬を諦める事例もあるという。
太田佳祐代表理事は「被害を我慢できる人だけが活動を続けたら、政治の世界から多様性が失われて、ハラスメントに鈍感になる恐れがある。自治体や政党は被害を相談できる仕組みを作り、『政治家へのハラスメントは許されない』と啓発し続けることが必要だ」と指摘する。
原文出處 讀賣新聞