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TAIWAN

不登校が原点、独学で開いた世界 オードリー・タン氏


オードリー・タンの教育論①
台湾の「天才IT担当相」と呼ばれ、日本でも注目を集めるオードリー・タン(唐鳳)氏(39)は、不登校になった経験をもつ。「どうして僕を生んだのか」と親を責めた時期もあったが、やがて自ら進むべき道をITの世界に見いだした。幼い頃から独学で磨いた知識と発想は、台湾のコロナ対策にも生かされ、国際的にも高く評価された。このほど朝日新聞のインタビューに応じたタン氏が、不登校に悩む日本の子どもたちや保護者へのメッセージを寄せた。父親の唐光華さん(69)への単独インタビューや、母親の李雅卿さん(66)が自著で明かした逸話も交えて、タン氏とその家族が歩んだ道のりを紹介する。タン氏は2016年から、民間登用のデジタル担当政務委員(閣僚)として、行政や社会のデジタル化、官民協力の拡大、若者の政治参加の促進などを担当している。昨年、新型コロナウイルスの流行初期にマスク不足が起きると、民間のIT技術者らと協力し、ネット上に無料のマスク配給地図をつくった。タン氏によると、日本のデジタル庁設置に関し、日本側から定期的に意見を求められてもいるという。抜群の頭脳の持ち主としても知られ、仕事ぶりも型破りだ。行政の会議でのやりとり、メディアのインタビューの受け答えを、すべて自身のサイトで公開する。役所の業務を透明化することが、人々からの信頼を高めるとの信念からだ。記者はタン氏が関わってきた新型コロナ対策や、官民協力に対する思いなどに加え、不登校の経験に悩む子どもらへのアドバイスを求めたいと考え、インタビューを申し込んだ。取材が実現したのは1月7日。記者はタン氏に関する書籍や台湾メディアの報道、タン氏が過去に受けたインタビューなどを読みこみ、質問をタン氏の事務所に届けていた。台北市中心部の行政庁舎1階にある執務室に姿を見せたタン氏は、冒頭、その質問の量に少しあきれたような表情を見せ、「今日はたくさんの質問があるようなので、すぐに始めましょう」と切り出した。許された時間は1時間。できるだけ多くの質問に答えようという配慮からだろう、タン氏はマスク越しに笑顔を浮かべながら、かなりの早口で語り始めた。

オードリー・タンの教育論②
台湾の新型コロナ対策で世界的に注目を集めた「天才IT担当相」、オードリー・タン(唐鳳)氏(39)は、小学校でいじめに遭い、学校に通えなくなった。両親はそれを受け入れて自学の道を進ませたが、当時の台湾では異例の決断だった。家族の葛藤はどんなものだったのか。朝日新聞のインタビューに応じた父親の唐光華さん(69)は、世界中でベストセラーになった日本のあの本が、一家の教育方針に影響を与えていたと明かした。記者は1月下旬、光華さんの自宅そばにある喫茶店で約3時間にわたって話を聴いた。光華さんはタン氏と同様180センチ近い長身。温和な表情を浮かべながら記者の質問に答え、記者の求めに応じて、自分が幼いタン氏を抱いたスナップなど5枚の貴重な写真も見せてくれた。光華さんは長年勤めた台湾の新聞社を退職後、「自主学習促進会」という非営利組織(NPO)で、不登校の子が自宅で学べる教材を研究したり、教師や子どもたちと勉強会を開いたりしているという。ひとしきり質問に答えた後、記者が「日本について何か疑問があればお話ししますよ」と伝えると、さっそく「日本はどうして国外の先進的な知識を導入しながら、伝統文化を守り続けられるのか」と尋ねた。さらに後日、メールでも「日本が何世代にもわたって、匠(たくみ)の技術を継承できているのはなぜなのか」「日本の学校教育は詰め込み式になっていないのか」といった疑問を寄せた。タン氏と同様、台湾をよりよい社会にしたいという強い思いがうかがえた。

オードリー・タンの教育論③
台湾の学校教育になじめず、学校に通わず自学する道を歩んだ「天才IT担当相」、オードリー・タン(唐鳳)氏(39)は、小学生時代に約1年間暮らしたドイツで、それまでとは全くことなる学びを体験する。そのままドイツで進学する道もあったが、「台湾の教育を改革したい」と故郷に戻ることを決意した。タン氏は1月に行った朝日新聞のインタビューでも、理想の教育制度を熱っぽく語った。幼い頃に不登校で苦しんだ経験を、いまの子どもたちに繰り返させたくないとの強い思いが読み取れた。タン氏が現在訴える教育改革には、タン氏が「美しい水先案内人」と呼ぶ母親、李雅卿さん(66)と、30年近く前に開校したある学校の成功が影響していた。 記者は雅卿さんが1997年に出版した「成長戦争」を読み、雅卿さんの子育て当時の思いや、タン氏のIT担当相としての仕事に対する受け止めを知りたくて取材を申し込んだが、「私はすでに現場の活動から退いた身ですから」と丁寧な断りの連絡があった。

オードリー・タンの教育論④
台湾の「天才IT担当相」、オードリー・タン(唐鳳)氏(39)は中学生のころから独学でITを学び、その才能を伸ばしていった。高校には進学せず、10代で起業。実力を認められ、活躍の舞台は世界にも広がっていった。自らの道を切りひらいた我が子の姿は、父親の唐光華さん(69)の目にどう映ったのか。光華さんは朝日新聞が1月に行った単独インタビューで、タン氏の不登校をめぐる当時の苦悩や、その後の家族の歩みを語った。台湾のIT担当相を務める我が子の最も印象深い仕事は何ですかと尋ねたところ、「父親としては答えにくいね」と少し照れながら、コロナ禍での活躍をあげた。父子はいまも折に触れて台湾の政治や教育について議論しているという。

オードリー・タンの教育論⑤
「自分が学びたい知識は高校にはない」と、進学をやめてIT業界に飛び込んだオードリー・タン(唐鳳)氏(39)は、ある日、自らがトランスジェンダーであることを両親に伝えた。性差にとらわれないその生き方は、社会に横たわる様々な壁を取り払おうとするタン氏の仕事にも通じている。台湾は昨年来のコロナ禍で、早期に流行を抑え込んだ。今年2月中旬の時点で、累積感染者は約940人(台湾入境時に確認された人を除く域内感染者は約80人、死者は9人)にとどまる。人口比で日本に当てはめた場合、感染者は約4800人、死者は50人足らずという計算だ。世界保健機関(WHO)からも称賛された成果を上げた背景には、民間から様々な知恵が生まれる土壌と、それらをしっかりと採り入れていく行政当局の姿勢が挙げられる。台湾当局が今年1月に世界経済フォーラム(WEF)の指標を使って独自に算出、公表した男女格差は世界で29位(日本はWEFの発表で121位)だ。タン氏へのインタビューでも、社会の多様さが台湾の強みであり、さらに伸ばしてしていくべきだという信念が読み取れた。

原文出處 朝日新聞

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