日本学術会議が推薦した会員候補6人が任命されなかった問題で、元会長の大西隆・東京大名誉教授(72)が朝日新聞の取材に対し、会議が提出した105人の推薦名簿を「見ていない」という菅義偉首相の発言を「無責任だ」と批判した。自らが会長だった時期の会員選考過程に、首相官邸がどう関わったのかも証言した。
――学術会議が会員候補に推薦した105人のうち6人が任命されなかった。この中には安全保障法制や「共謀罪」法に反対の立場をとってきた人もいた。
「理由を明らかにせず6人の任命を拒否したことは、大変遺憾だ。会員は優れた研究または業績のある科学者のうちから選ぶと、日本学術会議法にある。思想信条、政治的な立場は考慮しない。研究業績とは違う基準で任命拒否したとなれば、法に反する」
――菅義偉首相は、6人を除外する前の105人の推薦名簿を「見ていない」と発言した。一方で、6人を任命しない判断は安倍前政権でなく菅政権で下したと説明している。
「学術会議は、会長名で105人の推薦名簿を任命者である首相に宛てて公文書で届けた。見ていなければ99人を選んで任命することはできないはずだ。矛盾しているし、無責任のそしりを免れない。任命を拒否された方々を愚弄(ぐろう)している」
2016年欠員補充人事で何が
――学術会議の会員はどうやって選ばれるのか。
「1949年の発足以来、全国の研究者による選挙で選ばれていたが、選挙運動の行き過ぎなどが問題になった。84年に学会などからの推薦制度に変わり、2004年からは現会員が新会員を選ぶ制度となった。約2200人の会員・連携会員が、会員候補を最大2人、連携会員も合わせると最大5人までを推薦し、半年ほどかけて選考を重ね絞っていく。全て明文化されたルールに基づいて進む」
――2016年補充人事で官邸が難色を示したのか。
「定年で欠員が出る3ポストについて、各2人ずつの推薦候補を選び、優先順位をつけて名簿を作った。正式に推薦を決める前の段階だ。事務局を通じて官邸に示したところ、2ポストについて、上位に推した候補に難色を示された。下位の候補を推薦するよう求められたが、理由の説明はなかった。難色を示された2人は業績十分だったので驚いたが、議論の末、結局、全ポストについて推薦そのものを見送った」
――理由の説明を求め、優先する候補を押し通すべきだったとの批判もある。
原文出處 朝日新聞